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共有者の一人である被相続人の氏名更正登記の省略

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相続登記時には、被相続人の住所氏名の変更更正登記の省略が可能

 

相続登記の際、被相続人の住所が登記簿上住所から変わっている場合は、

住所変更を省略して良いという規定は、司法書士業界では常識です。

 

今回私が体験したものは、昔々に土地を複数人で買った際に、そのうちの一人について

氏名(姓)が誤って登記されていたケースです。

例として、私の姓を引用し、岩井ではなく誤って岩村 と書かれていたとしましょう。

元々誤って名前を登記するというのは、住所を誤って登記するよりもケースとしては珍しいと思います。

ご本人が見たら一瞬で違和感を感じるので。

 

依頼としては誤った氏名で登記された共有者が亡くなったので、相続登記をしたいといったご依頼でした。

 

初手は移記ミスのチェック

 

昔の登記簿は縦書きで手書き交じりのアナログなものでしたが、

現在これらは全て横書きのコンピューターでデータ化されたものとなっています。

アナログな全ての登記簿を、法務局職員達がワープロ打ちしてデータ化した経緯もあり、

人海戦術な作業なため、漢字の打ち間違い・変換間違いなどのミスも当然発生します。

そのアナログからデータ化への移行の際に記入ミスが起こる事態を、

業界では「移記ミス」と呼んでいます。

まずはその移記ミスがないか昔の手書きの登記簿を取り寄せることにしたのです。

移記ミスがあった場合は、法務局へその旨申出れば、職権で氏名を訂正してもらえるため、

依頼者様の負担も減ります。

しかし、今回は移記ミスではなく、昔の登記簿にも誤った氏名で登記がされていました。

 

そうなると今度は移記ミスでなければ、

「正しい氏名で申請をしたけれども、法務局が確認ミスをして誤った氏名に変換して

受付をしてしまったのでは?」という調査をします。

これもミスがあった場合は、法務局へその旨申出れば、職権で氏名を訂正してもらえるため、

依頼者様の負担が減るからです。

しかし、今回は法務局での申請書の保存期間を優に超えており、

さらに当時の権利証も紛失していたため、その立証も困難でしたので断念しました。

 

結果、当時の共有者ご本人か、代理司法書士が見落としたままのものと扱い、

なんらかの手続きをこちらサイドでやることに決定しました。

 

氏名更正登記を省略する際の必要書類

 

氏名更正登記を省略する際には、なにが添付書類となるのか非常に頭を悩ませました。

例えば、本来の氏名更正登記の場合は、当時の戸籍・当時の戸籍の附票・当時の権利証を

付けておけば、問題なく登記は可能でしょう。

当時の戸籍の附票などとうの昔に廃棄されていますが、

今回はたまたま、数十年前に、別の土地の相続登記をした際の戸籍や戸籍の附票が

残っており、これは非常に助かりました。

この戸籍の附票のおかげで、「土地を買った当時、登記上に記された住所には、

岩村ではなく岩井が住んでいた」が立証できるからです。

今回は権利証がないため、上申書が必要と考え、

遺産分割協議書に下記文言をつけ加え、上申書の代わりとしました。

〈本件相続物件の登記簿上の所有権登記名義人である岩本は、本来岩井と登記されるところ

誤って岩本と登記されているものである。よって現所有権登記名義人岩村は被相続人岩井

と同一人物である。〉

 

そして念のため、買った当時の住所に岩村さんは住んでいないことを証明する

不在住証明書を取得しました。

 

まとめると、

① 当時の戸籍の附票・戸籍謄本一式

② 上申書の文言を付け加えた遺産分割協議書

③ 不在住証明書

④ 本年度の固定資産税課税明細書(ここには所有者欄に正しい姓である岩井とかいてありました)

⑤ 他、相続登記に必要な書類一式

 

を出して相続登記を申請しました。

問題なく登記は完了。

 

共有者のうちの一人であるがゆえの問題点

 

実際申請の場面では、申請書の記載方法は頭を悩ませました。

まず、申請書には正しい姓の「岩井持分全部移転」と書くべきなのか

誤った姓の「岩村持分全部移転」と書くべきなのか迷いました。

単なる所有権移転とは異なり、申請書の目的欄に具体的に氏名を記載する必要が

あるが、どちらが正解か。

ここに関しては書籍を探しても見当たりませんでしたので、

氏名を省略して相続登記をする以上、登記簿に乗っ取って、

「岩村持分全部移転」と記しました。

 

目 的   岩村持分全部移転

原 因   年月日相続

相続人   (被相続人岩井)←ここには正しい姓

      持分2分の1

      岩井 太郎

 

といった形の申請書になりました。

なんとも気持ちの悪い申請書となりましたが、こちらで特段問題なく

申請は完了しました。

手続き完了後の登記簿はもちろん、新たな権利証にも

登記の完了証にも、「岩村持分全部移転」と載るため、

依頼者様にとっても気持ちの悪い書面となってしまいましたが、いたし方ありません。 

 

被相続人の氏名更正登記は共有者の一人であっても省略可能

 

まとめとして、被相続人が共有者の一人であっても氏名更正登記の省略は可能ですが、

今回は、依頼者様が昔の相続関係書類をお持ちだったので滞りなく手続きが終わりました。

これが、権利証もない、過去の相続関係の書類も無い、となると、

名前違いであることを立証するのは非常に困難です。大前提として名前が違えば別人です。

費用も膨大に膨れ上がる可能性だってあります。

我々にできることは、

①依頼を受けた登記に関しては、登記完了後、氏名・住所に誤りがないかの確認。

万が一、申請や法務局が誤っても、早期発見であれば廃棄される書類が無いので立証は簡単です。

 

②相続登記はお早めにすべきという広報活動。

お亡くなりになって5~10年も経つと、必要な書類が集められなくなってしまいます。

そうなれば、別の手段を探すことになり、費用がかさむ可能性が高いです。

 

参考になれば幸いです。