本投稿は、
- 1人の親権者による複数未成年者の相続分の譲渡の可否
- 相続分譲渡後に行われた遺産分割協議の内容
- 被相続人の住所が登記簿住所と繋がらない場合に添付する上申書について相続分譲渡人分の添付の要否
という盛り沢山なテーマの相続登記のご依頼を受けたため、
実際の手続きについて記載していきます。
なお、本投稿は依頼者様のご理解を得た上で、投稿しておりますが、
実際の家族関係とは一部内容を変えて掲載しています。
1人の親権者による複数未成年者の遺産分割協議と利益相反
上図のような相続関係でした。
X所有の不動産の名義を、依頼者Aへ名義変更したいという依頼です。
父親(B)を早くに亡くした未成年の子(D・E)が、代襲相続人として相続人となっています。
亡くなった順番としては、1番父(B)、2番目に祖父(X)という経緯です。
1番目にBが亡くなり、その後Xが亡くなったため、
Xの相続人は、依頼者A・C・未成年者D及びE
の4名です。
まず、法定相続分での相続ではない場合は「遺産分割協議を経て、依頼者Aへ相続登記」を
検討します。
この場合、D・Eは未成年なので、通常、遺産分割協議は子(D・E)の母(Bの妻)が
法定代理人として協議に参加します。
ところが、子が2名以上となると、母は複数人の子のために法定代理人として協議に参加することは
できません。子供同士の利益が対立するため利益相反関係にあたってしまうためです。
その結果、母親は、1人の子のみ法定代理することになり、その他の子に関しては、
特別代理人という裁判所の手続きを得て選任された者が、代理人となる必要がでてきます。
特別代理人の選任は、選任されるまでに相当の時間と費用がかかります。
これが依頼者様にとっては、負担となっており、別の手段を考えました。
1人の親権者による複数未成年者の相続分の譲渡と利益相反
特別代理人の選任を避けるため、遺産分割協議をせず、土地の名義を依頼者Aへ渡す方法です。
今回、幸いに、Bの妻は相続人に該当していないため、子1人分の法定代理が可能でした。
したがって、
①「未成年者Dの法定代理人Bの妻が依頼者Aへ相続分譲渡」
②「未成年者Eの法定代理人Bの妻が依頼者Aへ相続分譲渡」
という法律行為を行い、その後、
③「依頼者Aと相続人Cとの間で遺産分割協議をし、土地所有者をAに定める」
の流れを考えました。
まず①②において、Bの妻は結果的に子二人分の法定代理をしており、利益相反に該当するようにも見えます。
しかし、判例(最判昭42.4.18民集21.3.671)において、
「利益相反行為の判断は、行為を外形的客観的に考察して判定すべきであって、
親権者の意図や行為の実質的効果を判断の基準とすべきではない」と示しています。
言い換えれば、
①のみを見て客観的に利益相反かどうかの判断をし終結する。
その後②のみを見て客観的に利益相反かどうかの判断をし終結する。と言えます。
①②を総合的に見て判断の基準とするわけではないので、利益相反には該当しないと考えました。
上記の内容を事前に管轄の法務局へ問い合わせたところ、差し支えないとの回答を得たため、
この内容で、登記申請の準備に入りました。
今回の事案について、仮に亡くなった順番が、
1番目:被相続人X 2番目:B の順番の場合は、Bの妻は被相続人Xの相続について
相続人となってしまうので、今回は、Bの妻が相続人でなかったという点が大事な要素でした。
もしBの妻も相続人に該当している場合は、
Bの妻が家裁へ相続放棄の申述をした後に、相続分の譲渡をする必要があるでしょう。
ただし、不動産を依頼者Aへ取得させるために、Bの妻が相続放棄をすることになるため、
相続放棄の申述費用は誰が負担するのか、という問題が出てくるかと思います。