たまたまテレビをつけていた昨日のお話です。
世界仰天ニュースで、身寄りのない男性の遺産の行方についての実話が扱われていました。
その男性は
配偶者・子・親・兄弟がおらず相続人はいない。
男性の資産は計20億円以上。
その遺産を求めて争うのが、
何十年来の付き合いのある不動産屋さん、
遠い親戚(9親等)、
雪かき等身の回りの世話をしていた仲の良いご近所さん。
という筋書きでした。
男性は生前に不動産屋さんと一緒に下記の遺言書を書いていたようです。(うるおぼえ)
・自宅を残しておいてほしい
・何千万円は大学に寄付をしてほしい
・不動産屋さんが遺言執行者
しかし、男性が亡くなった後、その遺言書は様式を満たしておらず無効という扱いに。
それを受けて、
不動産屋さん、遠い親戚、ご近所さんが、特別縁故者(男性と生前に深いかかわりや世話をした人)という制度で
遺産を求めたのですが、全く無念極まりないレベルの財産しか分けてもらえず、寄付もできず、自宅も売り払われ、
19億円以上が国庫帰属になるというストーリーでした。
自宅を残してほしい、何千万円寄付して欲しいと頼まれていた不動産屋さんはもちろん、
土地をあげると生前に言われていたご近所さんも
誰も遺言者の意思を継ぐことができず、大部分が国庫帰属とは、亡くなった男性も浮かばれないでしょう。
このような事態を防ぐには、どうすればよかったか。
これは、宣伝みたいになってしまうけれど、
不動産屋さんが司法書士や弁護士等の専門家を交えて遺言書を作っていれば、
国庫帰属は防げたでしょう。
形式・内容の要件を満たした遺言書1枚さえあれば、遺言者の意思に沿った、
相続手続きができたはずです。
さて、遺言書を作成するにあたっては
遺言書は法律に則った形式要件を満たしていなければいけません。
たとえば、自書・押印・日付必須 といったものです。
最近はこういった基本的な要件を知っている方が増えてきているな、という印象を受けます。
がしかし、
この、形式要件を満たすというのは野球でいうところの、
「ユニフォームを着てバッターボックスに立った」だけです。
この後、「実質的な内容」までしっかり詰めて書いて始めて、遺言書として「ヒット」、「ホームラン」となります。
実質的な内容まで整っていないと遺言書として「アウト」ということも往々にしてあるのです。
世界仰天ニュースの中でも、遺言書の書き方について弁護士の先生が
形式要件をいくつかご紹介していましたが、到底数分でお伝えしきれるものではありません。
弁護士の先生が紹介した一部分だけが一人歩きしてしまうのは本当に胸が痛い。
私も以前実務で、形式要件全て満たした、
『全財産を愛知太郎に相続させる』とだけ書いた遺言書(※愛知太郎は仮名)
に出会いました。
遺言者(遺言を書いた人)には家族がいましたが、別居していました。
一方で遺言者はご近所に住む愛知太郎さんに死ぬまでお世話になっており、
その愛知太郎さんに恩を感じ、遺産をあげたかったのでしょう。
一見、何の問題もなさそうな遺言書ではありますが、
この14文字だけでは、全国の愛知太郎が遺産の譲受人として該当してしまうため、
果たしてどの愛知太郎さんに遺産を相続させたかったのかが遺言書からは特定しきれず、
この遺言書は遺産手続きで使用できませんでした。
形式要件として、遺産を貰う人の住所・氏名・生年月日を書けなんていう法律的な決まりはありませんので、
遺言者も分からなかったのでしょう。
裁判をすれば道筋はあったかもしれませんが、
愛知太郎さんは、「そんな気力はない」とのことで、遺産全て遺言者の家族に譲ったのです。
遺言者も愛知太郎さんも浮かばれない結果となりました。
付け加えてもう一つ、
仮に、愛知太郎さんの遺言書に、住所・氏名・生年月日を記載すれば、完璧だったかというと
そうでもありません。
なぜならこの遺言書の内容を実現しようとした場合、
これだけでは遺言者の家族の関与が必須となってしまうからです。
遺言書は有効でも、手続きに遺言者の家族の関与(署名押印や印鑑証明書の提出)が必要となります。
果たして遺言者の家族は、喜んで協力してくれるでしょうか?
そもそも電話が通じるでしょうか?
協力せよという裁判を起こしますか?
遺言者の家族の関与なしに自分ひとりで手続きをしたいはずです。
そこまで踏み込んでケアしてやっと遺言書として有効な「ヒット」が打てたといったところでしょうか。
遺言書は書けば良いなんてものではありません。
ユニフォームを着てバッターボックスに立ち、
ヒットではなく、完璧なスイングで必ず遺言内容を達成するホームランを打つ必要があります。
せっかく遺言書をつくるならホームランを打ちたい方、
ホームランを打って欲しいと思っている方、
是非、ご相談ください。